タクシードライバーの脳の特定領域が発達する=脳の可塑性があるというのはよく聞く話ですがなんとバードウオッチングが脳構造に影響を与えているという研究結果です。バードウオッチングは鳥を観察して識別するという能力ですが簡単に言ってしまうと達人ほど脳構造がコンパクトで加齢による老化に対して耐性があることが確認されたそうです(詳しくは↓)。同じような特殊技能による脳の発達は
- タクシーの運転手…空間記憶に関わる「海馬後部」の容積が増加
- バイリンガルなどの多言語話者・・・注意力の制御を司る「前頭前野」や、言語処理に関わる領域の白質の密度が維持。
- 楽器演奏…左右の脳をつなぐ脳梁が太くなったり、運動皮質や聴覚皮質が発達。
- ジャグリング…視覚的な動きを捉える「中側頭野(MT領域)」の灰白質が増加。
のような例でも見られていますが共通するのは認知的負荷(努力が必要)、継続、多角的スキルの統合といったとろでスポーツもやはり体力と技術が組み合わさることや相手の動きに対して対応する「オープンスキル」なスポーツで特に効果が認められるようです。(テニス、バスケットボール、フェンシング、格闘技・・・それ以外にもダンスなど)ただ有酸素運動そのものは脳の「肥料」とも呼ばれるタンパク質 BDNF の分泌を促しているということなので持久系アスリートも安心して?よさそうです。
バードウオッチングによる研究結果まとめ↓
1. 研究の背景と目的
これまでの研究でも、楽器の演奏やナビゲーション(タクシー運転手など)といった特定の技能が脳を変化させる(神経可塑性)ことは知られていました。 この研究では、視覚的な知覚、注意、記憶が複雑に組み合わさる「鳥の識別」という専門技能に着目し、脳の構造的な変化(リマデリング)と機能的な変化(チューニング)がどのように結びついているか、またそれが加齢にどう影響するかを明らかにすることを目的としました。
2. 実験方法
- 対象者: 29名の鳥の識別の達人と、年齢・性別を一致させた29名の初心者。
- 測定手法:
- 拡散MRI(dMRI): 脳内の水分子の拡散状態から、組織の「密接さ」や「複雑さ(構造)」を測定(平均拡散率:MD)。
- 機能的MRI(fMRI): 鳥の識別タスク中の脳活動を測定。
- 行動テスト: 地元の鳥や見慣れない地域の鳥を識別する精度を測定。
3. 主な結果
- 脳構造の「コンパクト化」: 達人は初心者と比較して、注意や知覚に関わる領域(前頭頂葉の額中回や、後頭・側頭葉の紡錘状回、楔前部など)において、平均拡散率(MD)が低いことが分かりました。これは、これらの領域の脳組織がより**構造的に密で複雑(コンパクト)**になっていることを示唆しています。
- 識別能力との相関: これらの脳領域の構造がコンパクトであればあるほど、達人の鳥の識別精度が高いという相関が見られました。
- 機能と構造の融合: 特に難しい状況(あまり見慣れない地域の鳥の識別など)において、達人は構造的に変化したこれらの領域を、選択的に効率よく活動させていることが確認されました。
- 加齢による衰えへの耐性: 通常、加齢とともに脳の拡散率(MD)は上昇し、構造が「緩く」なりますが、達人の場合は特定の領域において、加齢に伴う構造的変化が緩やかであることが示されました。
4. 結論と意義
この研究は、特定の分野での高度な専門知識の習得が、単に情報を覚えるだけでなく、脳の物理的な構造そのものを最適化(チューニング)し、効率的な機能を生み出すことを証明しました。また、生涯にわたって複雑な趣味や専門技能を磨き続けることが、加齢による脳の構造的な衰えを抑え、「認知予備能(脳の守る力)」を高める可能性を示唆しており、健康的な老化(エイジング)を考える上でも重要な知見を提供しています。



