移動と階級 (講談社現代新書 2774) 伊藤 将人 (著)
「移動」という視点から現代社会の抱える格差について着目した本です。少なくとも自分の若いころのイメージでは移動したくてもできないというのは昔の話であり、よりグローバルに、より自由になって日本人も外に出ていくのが推奨される風潮もあったので移動できる/できないというような分断というのはあまり頭にはありませんでした。ただ移動時間はお金で買うものというのがあったので移動できるという前提の上で最速の時間で移動できる人と最安の交通手段を使う人の間で格差があるというイメージでした。ただこの本では移動できる自由を持っている人ともっていない人との間での差が生じつつあることに着目していてやや意外な内容でした。移動する人は成功する…という本も出ていたりしましたが成功したからこそ移動するという因果関係なのかもしれません。主な論点は以下です。
「移動」が現代社会の格差を可視化する指標であるという認識
筆者は、現代社会において「移動できる人」と「移動できない人」の間に顕著な格差が存在し、これが社会の不平等や分断を浮き彫りにしていると考えています。従来の経済的格差や教育格差だけでなく、「移動」という新たな切り口から社会の構造的な問題に迫ろうとしています。
移動の自由が失われつつある現状への警鐘
調査データに基づき、多くの日本人が自身の移動の自由さに満足しておらず、他人の移動を羨ましいと感じている現状を指摘しています。これは、かつては当たり前とされていた「移動の自由」が、現代においては誰もが享受できるものではなくなっていることへの警鐘と捉えられます。
移動における多角的な不平等の存在
通勤・通学、旅行、引っ越しといった日常的な移動から、移民・難民、気候変動による移動といった地球規模の課題まで、様々な側面で移動の不平等が存在すると論じています。特に、ジェンダー不平等が移動にも影響を与えている点など、単純な経済格差だけでは語れない複雑な要因を分析しています。
「移動は成功をもたらす」という神話の再検討
一般的に「移動は成功につながる」というイメージがありますが、筆者はこの神話の真偽を問い、必ずしもそうではない現状=成功した人だからこそ移動するようになるという結果論や、移動に伴う新たな課題があることを示唆しています。
格差解消に向けた具体的な提言の必要性
単に問題を指摘するだけでなく、格差解消に向けた「5つの方策」を提示しています。移動の機会を平等にしていくことが筆者の着眼点。「自分の意思で行きたいところに行きたいときに行けるようになる」ことが筆者の目指す姿です。
1.企業や行政による、移動機会の格差解消支援
2.共助による移動をめぐる問題の解決
3.モビリティジャスティスの実装
4.調査の積み重ねとデータの蓄積
5.ジェンダー主流化の促進



